変形した指輪の修理
「指輪の変形を直せますか」
と、修理のご相談のお電話です。
どのような構造の指輪で
どのくらいの変形なのかでしょう?
実物を拝見しないとわからないので
ショップへ持参された指輪がこちらです。
あらら〜随分とぺちゃんこに・・・
これは一体、どうされましたか?
「サイズが緩いのに小指に着けていたら、
指からすっぽ抜けてしまって、車に轢かれてしまいました」
うーーーん、これは、元どおりにならないかも・・・
元に戻す過程で、ひび割れたりする可能性があるからです。
こればかりはやってみないとわかりません。
M字に歪んでしまっています。
完全に元どおりにならないリスクがありますが、
「奥さんからプレゼントされた大事な指輪なので
どうしても直したいんです。」との事。
そうでしたか。。。
では、保証はできかねますが、
それでもよろしければお預かりして、ベストを尽くしてやってみますね。
リングのお預かり伝票を記入する時、
歪みを元に戻して、サイズ直しもして
磨いて新品仕上げすると、
加工代金は、加工時間によってなので
8千円くらいになるお見積もりです。
もしやそのお値段で新しいの買えちゃうのでは?と
お伝えしたら
「これ、5万くらいしたんすよ・・・」とお客様。
ええええ!マジすか。
シンプルなシルバーの印台リングですが
よく見ると側面になんかブランド刻印がある〜
でも、ご購入されたそのお値段を聞いて
これもしかしたら直るかも。と内心思いました…
なぜかは後で書きますね。
さて、お直し作業を開始します。
まず、指輪に火を当てて焼きなまします。
セラミック台の上で、ガスバーナーで火を当て
指輪全体がピンク色になるくらいの温度まで上げて
(たぶん、600度〜700度くらいまでかな?)
そのまま少し空冷し
500度以下になったら水にジャボっと入れて熱をとります。
これで、シルバーがなまされて少し柔らかくなります。
(でも925の刻印なので、950よりは硬いんだよな・・・)
隙間に入る細い鉄製の芯金という棒を入れて
てこの原理で少し空間を広げたら
また火を当てて、焼きなまします。
地金は、曲げたり叩いたり力を加えると
硬くなる性質があります。
何度か焼きなましながら少し広げるという作業を繰り返し・・・
↑これは指輪用の芯金ではなく、石座用の細い芯金
一気にこじ開けるとヒビ割れのリスクあるので
ちょっとずつね、、様子を見ながらです。
だいぶ開いてきましたよ。
驚くことに、ひび割れの可能性は低そうです。
しかし…かなり上面も凹んでいますね。
ここまでくれば、やっと指輪用の芯金が入るようになる〜
最初の状態からは、だ〜いぶ回復してきましたね!
こういった銀の印台型リングを量産する場合、
おそらく鋳造法(キャスト)で作られていると思われますが
(地金を溶かして、叩いたり削ったりして作ったのなら
指輪のつなぎ目にロー目が出るはずだけど、
このリングにはロー付けされた形跡はないので、キャストで作られたと推測)
もし粗悪なキャストだと、
地金の密度がスカスカな部分ができたりで
そこに気泡のような「ス」が入ることがあります。
ピカピカに磨かれた製品になっているとわからないけど、
火を当てて曲げたり叩いたりすると、
その「ス」の部分がひび割れて露出することがあります。
といっても、
現代ではキャスト機材がだいぶ向上していて
企業努力により、あまりひどいスだらけのキャストなんて見かけなくなりましたけどね。
しかし、海外製品はどうだかわかりません。
昔は、お土産で2000円くらいで買ってきた銀の指輪、
サイズ直ししようとしたらスだらけだった、なんてこともありました。
で、最初に聞いてピンときた「お値段5万円」のワケですが、
このリング、元は12.5号なんですけど
私はプロなので、
ある程度は、形の見た目の表面積やリングサイズで
指輪の重さがだいたいわかるという特技があります。
で、この指輪をお預かりした時、手のひらに乗せたら
形の割には、なんか重い指輪だな〜という印象で。
もしやパラジウム割のシルバーとか?
それだと固すぎて戻すの無理かも、と危惧しましたが
焼きなましして開く作業のうち、
やっぱり普通の銅割のシルバーのようでしたよかった。
形がおおよそ戻っても、やっぱりやや重めなんです。
つまり、密度高いキャストってことよ!!!
ここまで戻しても、どこにもスは出ないし、ひび割れない!
さすが5万円!いい造りのブランドリングだな〜
真円にまで直りましたよ〜
オモテ面の凹みも、なんとかフラットになった!
ところでこれ、どこのブランドの指輪なのかしら?
横の刻印が目印ですね。
今はグーグルの画像検索で、一発で出てくるんですってね〜
私のスマホでは、グーグル使ってないので
代わりに娘がアプリで探してくれました。
なんかかっこいい指輪いっぱい作ってるブランドでしたよー
さて、頑張って細かいキズ取りして磨きましょう。
深い凹み傷を平らになるまでガシガシとヤスリで削ってしまうと
全体の形や質量が変わってしまうかもなので
ある程度、「ヘラがけ=磨き棒仕上げ」で
手作業で地金を力で寄せていく地道な作業を。
ショップには、地金の凹みキズをならす超音波ヘラという秘密兵器?があります。
以前は工房に置いていたこの超音波機器ですが、
キュイーーーんという高周波
子どもや猫たちがめっちゃ嫌がるので
お店に持ってきた。。。
さてさて、どうです〜この仕上がり!!!
小指用にサイズ直しもして、バッチリです。
ここまで綺麗に修復できたのは、
高品質なキャスト製の指輪だったからです。
高額シルバーリングおそるべしだわよ。。。
(海外の貴金属製品は、輸入時の税関で結構かかるから仕方ないんですけどね)
お直しが出来上がったリングをお引き取りにご来店のお客様
「え、、、すっごいですね!
うわ〜すごいっ、すごいな〜〜」
と、感激されてとても喜んでくださいました。
記念にお写真撮らせてくださ〜い!
小指にぴったり。手をブンブンと振っても落ちません。
よかったよかった〜
奥様も喜んでくれることでしょう〜
ご依頼ありがとうございました!
- 2023.02.11 Saturday
- アクセサリー修理
- 17:14
- comments(0)
- -
- by yumi matsushima